ウェンシーはひとしきり泣くと、親戚を訪ねよという手紙のくだりに思い至り、涙を拭うと行者に尋ねた。「あなたは、私の親戚がどこの山村に住んでいるのか知っていますか。知っていたら教えてください」
「聞いたところによると、あなたの親戚はヒマラヤの山麓に住んでいるようだ」。行者は答えた。
「ヒマラヤの北?南?ヒマラヤの北の山村に親戚がいるのを知っているというのですか?」
「私が知っている山村はとても多いが、あなたの親戚がどこにいるのかは知らない」
ウェンシーはしばらく考えてから口を開いた。「ここで少し待っていてください。すぐに戻ってきますから」。彼は言い終えると、すぐにラマにところにいって手紙を見せた。
「あなたのお母さんはよほど恨みが深いんだな。こんなに人を殺したのに、まだ雹を降らせるとは!」ラマはこれを読み終えると言った。「あなたの親戚が北方にいるのか」
「私にもわかりません。わたしは北方に親戚がいるなどとは聞いたこともありませんでした。しかし手紙にはそうありましたので、行者に伺ったところ、彼にもわかりませんでした。どうしたらいいのでしょうか」。ウェンシーには全くのお手上げの状態であった。
このとき、ラマの妻であるチホイコンシンが居合わせ、その手紙を一読するとウェンシーに言った。「すぐにその行者を呼んでらっしゃい」
彼女は豪勢な料理を作ると、行者に酒をすすめた。彼女は彼と談笑をはじめると、そっと行者の背後に回り込み、その上着を脱がし、自分の体にかけた。「この破れた上着を着て巡礼すると、必ず福があるよ」。彼女は、あちこちを歩き回ると、二階に上がっていった。
ラマの妻がその上着を切り裂くと、その中には価値のあるものが隠されていた。彼女はそれを取り出すと、また上着を修繕し、それを行者に返すと、また食事を勧め、しばらく泊まるよう勧めた。彼女はウェンシーに言った。
「ウェンシー、ウェンシー、私と一緒に来てご覧!」
ウェンシーは彼女と共にラマの元へと参じた。
「あなたには、これが何か分かる?」彼女は行者の上着からとりだしたものをかざしてウェンシーに訊いた。
「それは黄金ではないですか?」ウェンシーは黄金七両を見ると怪訝そうに聞いた。
チホイコンシンは言った。「あなたのお母さんは頭のいい人ですね。黄金七両を行者の上着に縫い込んでよこしたのです」
「手紙にある北方の山とは、太陽のあたらないところで、それは即ち行者の上着の中です。ここは太陽があたらないでしょう。黒雲の集まるところとは、それが黒布の下に縫い込んであるということ。六星が光を放つとは、黒布の上に白糸で星形の刺繍が六つあるところ。また、その下に親戚が七戸あるとは、そこに黄金七両が隠されているということ。手紙の最後にある、もし親戚の住所が分からず、山村が見つからなかったら、行者の身を探せばすぐに得ることができる。山村の中に行者が一人で住んでおり、他に求めてはならないというのは、黄金は行者が持っているので、他に探してはいけないということよ」
ラマはこれを聞くと破顔一笑した。「ははは!あんたたち女の人は聡明だというが、全く間違いない」
ウェンシーの母は、村人たちがウェンシーを殺害しようとしているのを知り、自分が遺した田んぼの半分を売出し、それを黄金七両に変えた。彼女は、この黄金をどういう風に送ろうかと思案していたところ、ちょうどひとりの行者が托鉢で村に来たので、彼の来歴を訊いたうえで、彼に頼もうと思ったのだ。
「どうぞ数日間はうちに泊まっていってください。わたしの息子が、ウェイツァン地方で法を学んでいますので、どうかこの手紙を渡してください」
「わかった。そこを通りかかったら、手紙を渡すことにしましょう」。行者は答えた。
その晩、彼女は燈明を灯し、祖先の霊と神明に祈りを捧げた。「もし私の願いが叶うのなら、この燈明が消えないようにしてください。もし叶わないのなら、消えるようにしてください。祖先と神の導きをお待ちします」。その結果、一昼夜その燈明が消えなかったので、彼女は自らの計を信じ、あくる日に行者に言った。
「巡礼に出る衣服と靴は大切なものです。わたしにその服を修繕させてください。靴底も一足差し上げましょう」。彼女はそう言い終えると、行者に長くて大きな皮を靴底用に渡した。そして、上着を持っていって修繕を始めた。
彼女はその上着のなかに黄金を七両隠し、そこを黒布で補修すると、そのうえに白糸で六個の星を縫い付け、行者にはこれを知られないようにした。行者は、離れる前に母から礼物を貰い、母は手紙の封切りに印をして、ウェンシーに渡すよう行者に託した。
このようにして、ウェンシーは学費を手にし、ラマを供養する用意ができた。しかし、その後雹を降らせたら、どのようにしてウェンシーは殺害の禍を避けるのだろうか。またその母もどのような計があって、ウェンシーがその禍を避け、最終的にその家財が叔父から返還されるというのだろうか。
(続く)
(翻訳編集・武蔵)