チベットの光 (56) 叔母の来意【伝統文化】

参考写真 ( Raimond Klavins / unsplash )

ジェサイは、ミラレパの話を聴いてじっと何か考えている様子だった。彼女にはどうしても理解できなかった。彼女の観念の中の大法師とは高みにある存在で、人々からの尊敬を受け、法事に明け暮れて忙しく、各種各様の珍しい供養を受けて…彼女はまた聞き返した。「あなたのように貧乏な佛を学ぶ人は聴いたことがないわ。あなたの一門は、何という方法なの?」

 「これが最も優れた修法なのです。世間の一切を捨て、それでこそ佛になって上乗に至れる最上の法です」

 「あなたの話や修行方法は、その他の法師とは違うわ。私は思うのだけど、あなたと彼らは、きっとどちらかが間違っているんだわ。例え二つのやり方が正確であったとしても、私にはむしろ彼らの方が好ましいわ」

 「世間が好ましく思っている法師は、私が目標としているものではありません。修煉とは、人の尊敬や評価を受けるためにやるものではなく、正果を得るためにやるものです。自らをよく修めてこそ、はじめて衆生を利することができます。あなたが好ましく思っている法師たちは黄色い僧衣を着ているが、日々俗世の中であくせくしているのです。表面上は立派に見えても、心の中は名利を捨てきれず、本当の修煉はできていません。総じて、もしあなたが高遠な志を立てるのなら、よく佛を修めることです。そうでなければ、地所の管理をしていることです」

 「私はあなたの地所は要らないわ。私も必ず佛を修めるけれど、あなたのようなやり方はできないわ」、ジェサイはそういい終えると、身を起こして去って行った。

 それから数日経ち、ミラレパが洞窟の中で打座していると、また来訪者があった。それは果たしてあの叔母であった。叔母は酒と食物をもって彼を見舞うと、満面の笑みを浮かべて言った。

 「甥っ子や、この前は悪いことをしましたね。私が来たのはお詫びのしるしです。あなたは佛を修める人なので、どうか寛容な心で察してください」、叔母はそう言うと、もってきた酒食をミラレパに手渡した。彼女は一呼吸を置いてから切り出した。「あなたの家の畑が荒んでからもうだいぶ経ちます。これは大変に惜しいことです。私が耕さしてもらうかわりに、毎月の賃料を払うってのは、どうかしら?」元々叔母は、ミラレパが地所を要らないと言っていたのを聞き及んでいて、その真偽を確かめに来たのだった。

 「いいでしょう。毎月、私が食べる分だけの食料を送ってくれれば、後の余りはそちらでもっていっていいですよ」。叔母はこれを聞くと、喜んで去って行った。

 叔母はこうして、毎月一回食料を運んできた。そして二度目の食料を運んできた際、彼女はミラレパの打座を破って、洞窟の中に入ってきた。

 「甥っ子や、村人は皆、あなたの家の畑を耕すと、護法の神が怒って私を殺害すると言っているわ。あなたは呪詛を掛けるつもり?」

 「どうして、そんなことが?あなたが私の畑をやってくれるのは、徳を積んでいることですよ。安心してください、あなたが食料を運んでいる限り、そういうことはあり得ません」

 「それを聞いて、私も安心しました。それでは呪詛は掛けないと誓っていただける?どうなのかしら」

 ミラレパは心の中で思った。この人が私に誓わせようとする目的は一体何なのか。しかし、彼女の魂胆がよくないものであったにせよ、それは業を消去するのには役立つ。私は佛を学ぶ人なので、自然に従うものとする。彼はそう考えて、叔母に対して誓った。

 叔母は大変に満足して帰って行った。

(続く)

(翻訳編集・武蔵)

転載 大紀元 https://www.epochtimes.jp/p/2021/04/72253.html

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