ウェンシーは戻ると、アバ・ラマを見かけたので、死骸がつまった包みをどっかと地面に置いた。
「先生、見てください!私は正法を求めに来たのに、却って罪業を積んでしまいました」。ウェンシーはこう言うなり泣きだした、「どうか先生、この大罪人を憐れんでください」
ラマは、ウェンシーがひどく傷ついているのを見て、彼をなだめるようにして言った。「怪力よ、おまえは恐れたり慌てたり、ましてや悲しむこともないぞ。ノノバ尊者の法は、鳥獣でも解脱させることができるのだぞ。今度の雹で死んだ動物たちは、おまえが佛になった暁には、おまえの浄土に入って、法を聴く第一の衆生になるのだぞ。それらがおまえの浄土に入る前には、まず地獄に堕ちないように手配してやるわ。百聞は一見に如かず…」ラマがしばらく沈思瞑目すると、突如としてこれらの死亡した鳥獣たちが蘇り、飛んで行ったり、走っていったりして、全部がいなくなった。
ウェンシーは呆然としてそれを見ていた。なんと不可思議なことであろうか。死んでいるものが生き返るとは、まるで演技でもしているかのように、それが目の前で堂々と起こったのである。ここにおいて、彼は法を求める心が堅く決まった。彼は想った、もし私が佛になることができれば、私が害したそれらの人や獣をも解脱させることができよう。もし私が佛になることができなかったら、それらの可哀そうな生命も得度することができず、私自身もまた地獄に堕ちるしかないのだ。
元来、ラマがウェンシーにマントラを使わせたり、雹を降らせるように言ったのは、これらの生霊を超度(※1)させるためであり、さらに勇猛精進させるためであった。彼に決心を促したのは、この世で佛になるには苦難がつきものだったからだ。彼らの法門では、選ばれたもっともよい弟子だけが、これをやり抜くことができるのだ。
この後、アバ・ラマは、彼に灌頂と口訣を与えた。粒粒辛苦の苦難に遇い、師父の名義を偽って、ウェンシーはやっと正法に辿りついた。彼は非常に喜び、すぐに山中に入ると、崖の中腹にある洞窟を探し出し、ラマに教授された口訣にしたがい、日夜修行に励んだ。
しばらくしてラマがやってきて彼に聞いた。「怪力よ、修行の方は、どんな具合で進んでいるのかの。もう、さっそくのこと、何か特別な感覚でもあったのではないかな」
「いや、何も」、ウェンシーはこれを聞くと、怪訝なおももちで答えた。「私には何も特殊な感覚はありませんでした」
「なに?そんなことがあろうか?われわれの法門では、何か戒律を破っていない限り、すぐにこの法門独特の修煉上の感覚が得られるはずなのだが…」。ラマはしばらく考え込むと、自問自答するように独り言を呟いた。「奇怪な、これは一体どういうことなのだ。もしマルバ師父の許可がなければ、あの手紙も証物(※2)もなかったはずだ。これはどういうことなのか、道理に合わん…」
彼はなにやらぶつぶつと言い終えると、ウェンシーに言った。「君はもう少し試してみろ。継続して努力を惜しまないことだ」
ウェンシーはラマの話を聞いて、内心びくびくとしたが、本当の事をきりだす勇気がなかった。正法を得るために、師母と結託し、師父の名義を騙ってラマに嘘をついては見たものの、この嘘は最終的に見破られるのである。そのうえ、アバ・ラマの話ぶりでは、もし本当に正法を得たければ、まずマラバ師父の許可をじきじきに受けなくてはならないのだった。
(※1)超度…仏道で、死んだ霊魂を地獄から救うこと。
(※2)証物…相手に信用を得るためのもの。
(続く)
(翻訳編集・武蔵)