辛い気持ちで、ほとんど這うようにして仏堂を出たウェンシーの絶望感は、筆舌に尽くしがたいものだった。部屋の中で大声で泣きわめき、絶えず心の中で思った。「ここにいても苦しみに苦しみを重ねるだけだ。法を得られなければ、生きることに何の意義があろうか?自殺したも同然だ!」
彼はこのように思い、考えれば考えるほど心が痛んだ。せめてもの慰めは、彼が泣き暮らしたその晩、師母が一晩中付き添ってくれたことだった。
次の日の早朝、師父は人を遣わしてウェンシーを呼んだ。ウェンシーは灌頂を受けられるのではないかと思い込み、師父の元へと急いだ。
「おまえは昨日灌頂を受けられなかったが、わしに対してよくない思いをもたげているのではないか?」
「ありません。師父に対する信心は少しも動揺しません」と彼は泣きながら答えた。「私は罪業が重く、灌頂を受ける資格などなく、心が痛むばかりで…」。 師父はその有様を見て怒鳴った。「お前何を泣いているのじゃ。そんな状態なら、ここから出て行け!」
ウェンシーはその場を立ち去った後、まるで気が狂ったかのようになり、山の中に走りこむと、大きな石の上にどすんと腰を下ろし、苦痛に満ちて頭を掻きむしった。そうしているうちにだんだんと心は静まってきた。しかし、頭の中では絶えず種々の思いが去来し、考えれば考えるほど苦しく、頭の中は雑念で一杯になった。「なぜ?なぜなんだ?」彼はたえず自問していた。なぜ、誅法を求めた時は、全てを得ることができたのに、正法を求めると、何も得ることができないのだろうか。
苦しみぬいても答えは得られず、頭の中は堂々巡りであった。「お金がなくては、法は得られない。法が得られなければ、この身のままで何をしようというのか?業に業を重ねるだけ…供養できないのなら、他の所に行っても無駄だ。ではどうすればいいのか」。彼は半日考えたが、このような考えでは、いい結論も浮かばなかった。師父のところに法を求めにきたのに、却っていろいろなことばかり起こった。供養できなければ、永遠に師父は灌頂をしてはくれない…まず銭を稼ぐことが先決だ。話はそれからと考えた。
ウェンシーはこうして、この場を離れることにした。前回では、師父のツァンバをもっていこうとして罵られたから、今度は食料を持たず、自分のものだけもって行くことにした。
師母はウェンシーが去ったのを知ると、さっそく師父に報告した。「先生、あなたが仇のように憎んでいた人はもうここにはいませんよ。うれしいですか?」
「誰のことをいっているのじゃ?」と師父は問うた。
「誰のことか、ご存じないんですか?あなたが仇のように憎んで、苦しみを負わせ、絶えず罵り続けていた、あの怪力君ですよ!」
「なに!?」師父はさっと顔面蒼白になると、涙をはらはらと流し、合掌すると祈りを捧げた。「歴代の師父、および空行の護法よ!どうか善根のあるわが弟子を護り、ここに戻してください!」そういうなり黙として何も語らなかった。
(続く)
(翻訳編集・武蔵)