雹を降らせた後、ウェンシーはまた師父の所へ戻り、正法を求めた。
「先生、わたしはすでにツゥダとリンバの収穫をふいにしました。どうか私に法を伝えてください」
「私に法を求める?これは私がインドで多年にわたって苦行してやっと手に入れたものだ。ちょっとばかり雹や雨を降らせたぐらいでもう法を得ようというのか」。尊者は眉をひそめて言った。「よろしい。もし本当に法を求めているというのなら、もう一つ私を助けてくれ。そうすれば法を伝えよう。チャワ地方の人は、私の弟子を襲撃したことがあり、総じてわたしに敵対している。もしおまえが彼らを誅する法をもっていて、彼らに教訓を与えることができるなら、インドで得た法をおまえに伝えよう」
ウェンシーはそれを聞くと、深々と頭を下げて思った。「これは一体、また殺人を犯さなくてはならないということなのか」。彼は心を痛め、葛藤した。以前、母親と自分の仇を討って殺人を犯したために、言い知れぬ苦痛と後悔を覚えたが、今度は見ず知らずの人たちなのだ。
「しかし…師父の仇はわたしの仇ではないのか?」ウェンシーは自問自答した。「師父の仇として、私は教訓を与えるべきではないのか?師父に敬意を払わない輩をどうやって許すというのか?いわんや、いわんや…師父の話を聞かなかったら、それで弟子といえいるのか?弟子でなかったら、それで法を求めることができるのだろうか?」
彼は思いを巡らし、最後には決心した。師父の話は聞かなくてはならないと。
こうして、彼はまたしても誅法を施した。すぐにチャワ地方で内乱が起こり、多くの人々が死亡し、師父に敵対する人もこのなかですべてが戦死した。
尊者は、ウェンシーのマントラによる誅法が成功したのを見て言った。「君のマントラ誅法と雹を降らせる法はまことに恐ろしいものじゃ。思いのままに人を殺すことができ、雹を降らせることができるのだな!」これ以降、尊者はウェンシーを「怪力」と呼ぶようになった。
「先生、私はすでに先生の仇を討ちました。どうか私に正法を伝えてください」。ウェンシーは再度法を求めたが、思ってもみなかったことに、尊者は大笑いした。
「はははは!君はそんなに大きな罪を犯しておいて、まだ私に正法を求めるのか?全く笑わせる。これは私が必死の思いで、家財を全部なげうって、師父を供養して手に入れたものだ。君はそんなに人を殺しておいて、まだ私に正法を求めるというのか。君は私を笑わせようというのか、笑わせるのにもほどがあるぞ。君は誅法を知っている人なので、もしわたしに正法を求めていなかったら、私を殺していたかもしれない…」
ウェンシーはこれを聞くと卑屈になり、形容しがたいものを覚えると、涙がはらはらと出てきて、目の前が真っ暗になった。
「よろしい!もし君が本当に正法を求めているならば、ツゥダファとリンバの収穫を元に戻し、チャワで死亡した人たちをよみがえらせてみよ。そうすれば法を伝えよう。できなければ、もうここにいる必要はないぞ!」尊者はそうしてまた彼を罵ると、いずこかに去ってしまった。
ウェンシーは泣くことさえ忘れたまま、呆然としてそこに立ちすくんだ。彼は失望し、悲しくて仕方がなかった。彼は正法を得られなかったばかりか、また悪事を犯してしまったのである。彼は完全に方向性を失い、呆然として歩きだし、どこにいったらいいかも分からなかった。路上で偶然に尊者の妻と出会い、彼女は心配して声を掛けた。
「怪力さん、あなたどうかしたの?」
ウェンシーは彼女の優しく暖かい声を聞くと、鬱屈していた心が一気に爆発し、大声で泣きながら事のいきさつを訴えた。尊者の妻は、尊者の癇癪をよく知っていたので、なす術もなく、かたわらで彼を慰めるしかなかった。
(続く)
(翻訳編集・武蔵)