ウェンシーは師父を供養するために数日もロツアウ谷で物乞いした。彼は物乞いしてきた裸麦で大銅燈、酒、肉を買った。そして、余った裸麦を頭陀袋の中に入れ、その上に大銅燈を括り付け、それを背負って歩き回った。頭陀袋一杯の裸麦に、大銅燈を括り付けると、それは実際耐えられない重さとなった。ウェンシーが、それを担いで尊者の家の前まで来ると、疲労困憊して荷物をどさっと地面に置いたので、家全体が振動でぐらぐらとした。
このとき尊者は食事をしていたが、突如として物音がして家が振動したので、急いで外に出て何事かと確認し、ウェンシーをみとめると大声で言った。「このちびすけのくそ力が!家を壊して、わしを圧死させるつもりだったか?」そういうなり、ウェンシーを足蹴にした。「何をそこでぼうっとつったっているんだ。早くその頭陀袋をもっていけ!」
ウェンシーはこれを聞くと、急いで頭陀袋一杯の裸麦を外に運び出した。彼は、やみくもに怒鳴られ、足蹴にされたものの、心の中には何の不満もなく、また何の悪い思いも起きなかった。彼は歩きながら考えた。「この大先生は癇癪持ちだ。以降は細心の注意を払って応対しなきゃ」
このように考えて、ウェンシーは買ってきた大銅燈を手にすると、再び屋内に戻り、恭しく尊者を礼拝し、これを供養した。
尊者はこれを手にすると、しばし瞑目して沈思黙考し、はらはらと涙を流し始めた。「誠に過分なる縁、これはインドのノノバ尊者に供養する銅燈だ」。尊者はこう言うと、棍棒でこれを叩いたので、あたりに静かで清らかな鐘の音が響いた。続いて彼は、銅燈のなかにチベット・バターと燈心を供え、これに燈明を灯した。ウェンシーは傍で見ていたが、早く正法を得て、早く修煉を始めることばかりを考えていた。実際彼には、どうして尊者が単なる一個の銅燈に感激して涙し、これを叩いて燈明を供えたのかが分からなかった。彼は焦るあまり、直接尊者のところに駆け寄って言った。「先生!どうか正法をお伝えください」
尊者はウェンシーの声を聴くと、銅燈を供養する喜びのなかからやっと現実に戻った。
「ヤンツェから法を学びに来る信徒は前から多くいたが、彼らがツゥダファ地方やリンバ地方を通りかかるとよく追いはぎに遭って、食料も送れずにわしを供養できなかった」。そしてウェンシーに言った。「お前は確か雹を降らせることができるとか言っておったな。であれば、この二つの地方にまた雹を降らせて、奴らが二度と悪いことができないようにしておくれ。見事成功したら、法を伝えてやろう」
ウェンシーは以前に雹を降らせて村人の収穫を全部駄目にし、結果心霊に相当な衝撃を受けたことに思い至り、実際二度とやる気がしなかった。しかし師父の言いつけとあれば、聞かないわけにはいかない。彼は思った。「即身成仏の法はこの先生だけが持っている。もし彼の話をきかなかったら、法は伝えられないし、ぼうっとしていたら、時間ばかりすぎてしまって、ますます苦しくなるだろう。もし、もう一度雹を降らせても、法を伝えてもらえれば、修成した後で、被害にあった人たちをひっぱりあげて済度することもできよう。いわんやこの人たちは師父の信徒たちを邪魔していた、もともと悪い人たちだ。本来教訓を与えてしかるべきで、二度と悪いことができないようにしよう」
ウェンシーはこのように考えて、心情的には明朗になり余裕もできたので、再度雹を降らせる儀式を執り行い、この二つの地方に打撃を与えて、裸麦の収穫を一粒残らず駄目にしてしまった。
(続く)
(翻訳編集・武蔵)