ウェンシーはラマが去ったのを見届けると、思わずおいていった酒瓶を取り上げ、「ゴクリ」と一口含むと、やおら畑を耕し始めた。畑をやり始めてからまもなく、可愛い子供が彼に駆け寄ってきた。
「先生があんたを呼んでいるよ!」
「ちょっと待ってくれ。先に畑をやっつけるから。私はさっきラマに畑を手伝うと言ったから、終わってからにするよ。君は先に行って、ラマに言ってくれ。畑が終わってから伺うと」
ウェンシーは言い終えると、早く先生に会いたくて、休まず一気に畑を済ませた。こうして、後にこの畑は「順縁の畑」と呼ばれるようになった。
畑を終えると、その子がウェンシーを先生のところまで連れて行った。ウェンシーが堂に着くと、さっき見た長身痩躯のたくましいラマが上座に座っているではないか。「これはさっき見た人ではないか?マルバ先生はどこに?」ウェンシーはキョロキョロとあたりを見回した。
「この子は本当にわしの事が分かってないなぁ!」堂の上座に座っているラマが豪快に笑って言った。「わしがマルバじゃ。それでわしを探し出して、何をしようというのじゃ」
ウェンシーは大喜びしてマルバ尊者に恭しく頭を下げ、礼拝して言った。「先生、私はヤンツェから来た罪悪人です。師父に正法を求めてやってきました。私の身・口・意を先生に供養しますので、どうか私に衣食と即身成仏の法をお与えください」
「おまえは自身を罪人だと言っているが、何の罪を犯したというのだ。どうして正法を求めているのだ?」とマルバ尊者が尋ねた。
ウェンシーは、親戚や友人に騙されて酷い目にあったこと、仇を討つために誅法を学び殺人を犯し、雹を降らせたことなど洗いざらいマルバ尊者に話し、後悔しながら言った。「先生、私はこんなにも悪いことをしてしまいました。現在では後悔しきりで、心中は苦痛でしかたがなく、何のために生きているのか全くわかりません。正法を求める一心で、正道を歩みたいのです。ですから、どうか即身成仏の法を授けてください。成仏できなければ、私は死んでから地獄に堕ちて…」ここまで言うと、ウェンシーは堪らずに泣き出した。
「そういういきさつだったのか。では、おまえの身・口・意は師匠にあずけることだ」。マルバ尊者は聞き終えると頷きながら言った。「しかし、衣食を与えることと、法を伝えることの二つは叶えられないぞ」
「それとだ、あらかじめ言っておくが、もしおまえに法を伝えたとしても、それで佛になれるとは限らないぞ。それは、自身のたゆまぬ努力と精進にかかっているのだ」
ウェンシーは内心思った。「即身成仏の法はこの先生が持っている。もし今生で修成しなかったら、死後は必ず地獄に堕ち、輪廻の苦しみを受け、次は人になるかどうかもわからない。法を得るかどうかが問題だ。いわんや、ここで正法を学ばなかったなら、衣食を受けても何の意義があろうか?」このように考え、すぐに大声で言った。
「先生、法を学ばせてください。衣食は自分で何とかしますから」。言い終えると、ウェンシーは自身が持っていた経書を仏堂に置こうとした。
「そんな本は要らんから、もっていけ!」マルバ尊者が言い放った。「そのような邪な黒い本では、わが仏堂が穢れるわ!護法の神だって、その本の邪気を嫌がっているぞ」
ウェンシーは怪訝に思った。先生に本の中に呪詛や誅法が書かれていることが知られていたのか。
(続く)
(翻訳編集・武蔵)