叔父はまくしたてるなり、傍らにあった馬具用の鞭をとってウェンシーの母親を打ち据え始めた。妹のプダは驚き、ウェンシーと抱き合って傍らで震えていた。叔父は、打ち据え終えてもまだ気が収まらないのか、全身を震えさせながら、衣服の袖でウェンシー兄妹をはたいて怒鳴った。
「わたしがいつ、おまえたちを不公平に扱った?おまえたちは物事の良し悪しも分からない、恩を仇で返す輩だ」
母親は、叔父の乱打からウェンシー兄妹を抱きかかえてかばい、身を呈した。彼女は、悲しみのために地上に倒れ伏して泣き叫んだ。「ミラ・チャンツァイ!あなた見てください!あなたは生前、棺桶の中からはいだして見てくれるといいましたね!どうか、はい出てきて、わたしたち親子三人のざまをみてください!」
親子三人は、抱き合いながらさめざまと泣いた。これを見て不憫に思い涙を流す人も多くいたが、叔父の覇道跋扈を見て、大方には敢えて発言するものもいなかった。母方の伯父も、傍らに静かに立ちすくんで怒っていながらも発言する勇気はなかった。
このとき叔父は、まだ気がおさまらないのか、最後には煩悩を爆発させて言った。「財産を返せって!?よしんば財産がおまえたちのものだとしても、いったいどうするのだ。財産がかえらなかったら、どうするというのだ。おまえたちの財産を使って、わしが飲み食いに明け暮れて楽しんでいたら、おまえたちはいったいどうするのだ?」
「おまえたちに何らかの能があるとしたら、誰かを探して一戦を交えて財産をもっていったらいい。そうでもないなら、まじないにでもすがることだ!」叔父はからからと高笑いをすると、取り巻き連中とともに出て行った。
ウェンシーの母親は極度に傷つき、泣き止まなかった。大きく張り巡らされたテントの中の宴席は冷え切って、向こう三軒まで伝わっているようだった。
大きな宴席には、ウェンシー親子三人とこれに同情する親友だけが残った。彼らは親子の傍らに立ち尽くしていたが、どうやって慰めればよいのか分からなかった。彼らはウェンシー親子を助ける方法を探し、いくばくかのものを贈ろうと相談した。
「私は無力で家財を返還させることができない。しかし、他人の財産で自分の子供を養おうとは思わない。もし叔父夫婦が財産の一部を返そうとしも、もう受け取らない!」ウェンシーの母は、極度の悲しみの中で悲壮な決意を口にした。「しかし、どんなことがあろうとも、ウェンシーには手に職をつけてもらいたい。そして、私とプダの2人は、叔父夫婦の『厚恩』に返す日のためには、その日がくるまで、例え使用人になることがあっても快く受け入れる。今にみていらっしゃい!」
極端な悲しみにくれたために、彼女は強情になっていた。しかし、彼女の決意が固いのを見て、誰も口を開こうとせず、彼女の意思にまかせていた。
この日、ウェンシーは一家の悲劇が一区切りしたかのように思っていたが、実は本当の悲劇がこれから始まろうとは知る由もなかった。
(続く)