父親の死後、ウェンシーとその妹のプダの生活はままならなくなった。彼らは、夏の間は畑で過酷な労働に耐え、耕作のできない冬になると叔母の羊毛織りを手伝って、市場に売りに出かけた。「生きるためには、働いてもらいますよ」と叔母は言い、この兄妹が少しでもしくじると、これを罵って折檻し、罰として食事を与えなかった。その時、ウェンシーは7歳で、プダは3歳だった。
「あんたたち、わざと羊毛をダメにしたね!こんな性悪な子供見たことないわ。大きくなったら、どうなることやら」。叔母はダメになった羊毛を見ると、これを踏みつけて言った。
「この子たちったら、父親が死んだから教養も何もない。このおばさんが、代わりに教えてやるよ」。叔母は二人の子供の目の前で、彼らに残されていた僅かな残飯同様の食事をもってくると、テーブルごとひっくり返した。
氷雪の凍てつく冬に、兄妹は飢えで腹の皮と背中の皮がくっつきそうになっていた。やっと目にした食物もテーブルごとひっくり返され、3歳の妹のプダは大声で泣き出した。
「なんで泣いているの?」叔母はプダの頬を抓って怒鳴った。「悪いことをして泣いてごまかすつもり?あんたたちがダメになった羊毛を弁償できるとでもいうの?」
「あんた、何をしたの?」騒ぎを聞きつけた兄妹の母親が家の中に入ってくると、ひざまずいてプダを抱きかかえ、心痛で声も出なかった。
叔母は怒りに火がついて罵った。「いい光景だわ。さぞかし亡くなったお兄さんも棺桶の中からはい出てきて、あんたが子供たちにどういう教育をしているのか見にくるでしょうよ!わたしがこんなに苦心してあんたの子供を教育しているのに…恩を仇で返す人たちだわ、あんたたちは!」 叔母は吐き捨てるように言うと立ち去った。このようにして、親子三人は幾日も食べ物も飲み物も与えられない日が続いた。これを不憫に思った隣人が、少しの食物を差し入れていただけであった。
ウェンシーの母親は、二人の子供が虐待を受けるたびに涙で顔を濡らし、一家の暮らしは毎日が悲惨であった。二人の子供は過酷な労働を強いられていたが、十分な食事を与えられず、衣服も暖が不十分だった。手足は傷だらけになり、流血してもなお働かされたので、そこがまた破裂してかさぶたになっていた。更に、仕事をしくじると叔父夫婦に殴られる心配があった。仕事がうまくできても、いつ叔父夫婦に罵られるか分からない状況であった。二人の幼児は、母親が泣いているのを見て一緒に泣いた。母親がこのように陰惨で恨めしい様子だったので、二人の子供には安息の時がなかった。
母親は心痛で声も出ず、天を呪い、世間の人情が薄いことを恨めしく思った。そして、夫が健在であった頃や、その遺言に思いを馳せると、涙が止まらなかった。亡き夫の声が、彼女の耳に響いた。
「このたびの私の病は、どうも治らないらしい。わたしの子供たちはまだ小さいが、父無し子になるようだ…おじさんやおばさん、親戚や友人には迷惑を掛けることになるかもしれない…」ウェンシーの父親のミラ・チャンツァイは、自身が遺した豊富な遺産について遺言を言い終えると、今にもこと切れそうになった。
ミラ・チャンツァイの財産には、広い田地、牛、羊、馬、豚など無数の家畜があった。その妻は深窓の令嬢出身で、まだ子供も小さく、また平素から親戚や友人には最大限によくしていたので、彼らに遺児の面倒を見てもらおうと思ったのである。そのうえ、家の中には貴重な宝石や高級な家具、絹織物などもあり、それらは残された三人の家族が暮らしてもまだ余りあるほどだった。そのため、彼はいまわのきわにあっても安心だった。彼は、遺言を続けた。
「私の死後、その財産はおじさん夫婦と親戚に預け、残った妻と二人の子供を助けてもらう。そして、ウェンシーが成人したら、嫁を迎えられるようにし、ウェンシーに全財産を相続してもらう。それまでは、叔父さん夫婦と親戚には、三人の生活の面倒を見てもらいたい。そうでなければ、私は死んでも死にきれない」。ミラ・チャンツァイはこう言い終えると、事切れた。
親戚一同は葬儀を済ませると会議を開き、事後のことについて相談した。そして、財産の一切をウェンシーの母親に託そうということになったが、叔父夫婦がこれに強硬に反対した。
「あなたはたしかにお義兄さんの嫁だったかもしれない。しかし、わたしの旦那は肉親なのよ。お義兄さんの遺言通り、全財産はわたしたち夫婦が管理するわ!」
「あなたたち親子には決して苦労をさせないから」。叔父夫婦はこう言い捨てた。
(続く)