唐玄宗の時代、御史大夫(官吏の監察・弾劾を司る長官)を務める魏方進には言葉が喋れない弟がおり、15歳になっても、よだれや鼻水を垂れ流していて、親族や周りにバカにされていた。彼のことを哀れに思う姉は、たった一人で彼に衣食を与え、召使に彼の入浴を手伝わせ、面倒をみていた。
ある朝、彼はいつものように体をあちこち掻きながら鼻水を垂らし、屋外で日向ぼっこをしていた。すると、隣家に数十人の騎士を連れた使者が現れ、「仙人大師はどちらに?」と訪ねた。使者は近くにいた彼に気づくと、彼に深く礼をした。
暫くしてから、「なぜ遅れたのか?ことはもう済んだのか?」と彼は声を高くして問い詰めた。「まだ完成していないものがあります」と使者は答えた。「では、早く行って片付けなさい」と彼は使者を叱責した。一部始終を見ていた隣人は、愚かだったはずの彼が別人のように表情を輝かせ、事理をわきまえていたので驚いた。
使者たちが去った後、彼はまたもや鼻水を口元までたらし、体のあちこちを掻きまくり、以前の状態に戻った。
その晩、彼は亡くなった。隣人から話を聞いた魏方進の家族は不思議に思ったが、彼を特別扱いすることもせず、簡単な棺を用意した。姉だけが悲しみに暮れ、密かに葬式を行った。そして、彼女はお気に入りの刺繍の付いた黄色い上着を柩の中にこっそりと納めた。
当時、「安史の乱」が勃発し、唐玄宗は敗北して蜀へ退却した。玄宗に随行した魏方進一行は途中で兵士の反乱に遭い、宰相である親戚の楊国忠が殺害され、魏方進とその家族も惨事に巻き込まれた。
兵士の反乱が起きた時、姉は子供たちを宿泊先に残したまま出かけていた。宿泊先で思わぬ惨事が起きたことを聞いた姉は、子供たちの身を案じたが、現場に近づくことはできなかった。翌朝、姉は急いで戻り、子どもたちを探しまわった。ふとその時、死体の山の中に衣服が置いてあるベッドが目に入った。その上には、自分が弟の柩に納めた刺繍の付いた黄色い上着があった。3人の子供たちはその上着に覆われて、皆無事だった。彼女は子供たちを抱きかかえて号泣した。そして、親子4人はその場を去り、山中へと逃げたという。
(翻訳編集・蘭因)
転載 大紀元 https://www.epochtimes.jp/p/2021/03/69959.html
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