中学校の生物教科書には、胚芽の発育図が掲載されており、魚類、山椒魚、亀、ニワトリ、豚、牛、兎、人などの胚芽発育の異なる段階を示している。原版はオックスフォード大学ボドリアン(Bodleian) 図書館に収蔵されている。その作者は、19世紀ドイツ・イエナ(Jena) 大学の生物学教授ヘッケル(Ernst Heinrich Haeckel)であった。この図から下された結論とは、これらの動物は成長した後では異なる形態を持っているが、胚芽発育過程で形態の似ている段階がある。人類を含めてさまざまな動物が胚芽の発育過程に、魚類の形態に類似する段階がある。このことから、これらの生命の共通の祖先は水生動物であり、胚芽発育過程でその祖先の特徴が再現されたのだという。これが進化論の三大証拠の一つ「発生反復説」というものだ。
このように発生反復説を用いて進化論を証明することは、次のような推理方式で表現できる。つまり、「もし進化論が成り立ったら、胚芽発育は進化の過程を再現することがある。胚芽発育は進化の過程を再現することが観察されたから、進化論は成立する」。論理的に言えば、これはまた、仮説で仮説を証明する「循環論証」の方式だ。
1997年、イギリスの科学者リチャードソンは、多くの実験室と協力してもっと多くの種の動物を収集し、動物たちの胚芽発育形態を観察した。その結果、彼らはヘッケルの図は事実に基づいた描写ではないことを発見し、「私たちの研究はヘッケルの図の信憑性を大きく失墜させた。ヘッケルの図は、脊椎動物の胚芽発育過程で一つの似ている時期があるということを示したというより、むしろ固定的なプログラミングに基づいて設計された胚芽図形だと言ったほうが正しい」と指摘した。世界的な権威を誇る科学雑誌「サイエンス」は、1997年にこのことについての総合論述(Science 1997、277:5331)を発表した。
では、どうしてヘッケルとリチャードソンの結論はこのように大きな違いがあるのだろうか?原因は、ヘッケルが意図的に形態の似ている動物の胚芽を選択したからだ。例えば、彼は、両生類の代表に雨蛙を選択しないで、サンショウウオを選択した。原因は山椒魚のほうがより魚に似ているからだ。もう一つの例では、ニワトリの初期胚芽の眼球は色素がないのに、ヘッケルは眼球を真っ黒に塗って、ニワトリの胚芽を他の動物の胚芽と似ているように操作した。ヘッケルは特に人間胚芽の図を芸術的に加工して、人間胚芽の内臓部分と足を描き入れず、魚の胚芽に似ている尻尾のある形に描いた。
遺伝子学の出現と分子生物学の発展に従って、特に遺伝子研究の発展により、発生反復説は理論的に空前の危機に直面している。現在では、遺伝子の突然変異が進化の原因として公認されている。それなら、過去の遺伝子が突然変異によりすでに新しい遺伝子に変わったのに、どうして過去の特徴を再現することがありうるだろうか?
(続く)